特集 / あの人と行く越後妻有 第2回(前編)

眉村ちあきが感性全開で挑む、アートな社会見学

眉村ちあき(弾き語りトラックメイカーアイドル)

一度聴けば忘れられないソングライティングと歌唱力、さらに「バスジャックライブ」「地引網ライブ」などを敢行し、アイドル界の革命児とされる眉村ちあきさん。その彼女が、人生初の越後妻有でアートの武者修行へ。天然ポジティブな感性で、アートに飛び込み見つけたものとは?

テキスト:内田伸一 撮影:豊島望 編集:内田伸一、川浦慧(CINRA.NET編集部)

25 November 2019

元小学校で探検! 「絵本と木の実の美術館」

眉村ちあき。「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」は2009年誕生。

最初に向かったのは「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」。2005年に閉校した小学校が、「空間絵本」として生まれ変わった場所です。実在する最後の在校生3人と、ユーモラスなお化けたちを活き活きと描いた物語『学校はカラッポにならない』を、校舎をめぐり体験します。

鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館(2009年)

廃校となった旧真田小学校で、「空間絵本」を体験する美術館。絵本作家の田島征三が校舎中に配したオブジェ群で、かつて学校に通っていた生徒や先生、お化けまでをも表現。地元・鉢集落やボランティアも協力して完成した。流木や木の実を生かした立体作品展示もあり。詳細は以下を参照。

鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館ホームページ

*来訪は、上記ページで公開時期・時間や訪問方法をお確かめのうえご計画ください。

元体育館の空間いっぱいに広がる、カラフルな流木オブジェ。

入口は元体育館。色とりどりの流木オブジェが出迎えてくれます。眉村さんは「わーっ、何これすごい、学校にいた動物たち?」と驚いたのも束の間、独自の感性で作品世界に飛び込んでいきます。

眉村:水色のチンアナゴがいる! こっちの黄色は亀かな。浮かんでるのは「吊るしヤギ」? 天井からぶらさがってるみんながもっとユラユラしてたら、このアート、どう見えるのかな〜。あ、自分がぐるぐるしちゃえばいいか。

と、やおら上半身を回転させ始めた眉村さん。「おっ? これ何だかスゴイ!」。アートの鑑賞スタイルも常識の斜め上をいく眉村さんです。

体をぐるぐる回しながら作品を見る、ローリング鑑賞法が生まれた瞬間。

「逆さからみても面白いかも?」。思い付いたら即実行の眉村さん。

チンアナゴ(眉村説による)について熱弁。

眉村:ちなみにチンアナゴって、細長い体がニョキッと出ていて、いつも数匹一緒ですよね。でもあれ、実は砂の中で全員つながってるんです。このオブジェはそれを表したもの、と私は思う(笑)。

「空間絵本」は教室へと続きます。階段を上ると、先を行く彼女の叫び声が。現れたのは、どこか憎めないオバケ「トペラトト」でした。この学校に長いこと棲みついていて、みんなの笑い声やおしゃべり(思い出)を「ごちそう」にしてお腹にためているとか。心なしか来客が嬉しそうです。

ここで過ごした人々の思い出をごちそうに生きてきたという憎めないオバケ「トペラトト」。

向かいの教室では、生徒たちと思しき3体の流木オブジェが勉強中。閉校前の最後の在校生となった3人がモデルです。ここでも眉村さん流の想像を聞かせてもらいました。

かつての賑やかな授業風景を思わせる教室。

眉村:3人だけどとっても賑やかそう。たぶん、いちばん体の大きな左の子は、いつも周りに人が集まる人気者。でもだからこそ、一番親しい人っていうのがいない悩みもあって……実は真の孤独と優しさを知っている、そんなおませな小学生かな?

生徒たちの気持ちを自由奔放に妄想中。

絵本によれば、3人の名前はユウキとユカとケンタ。閉校式の翌日も学校のことが気になってやってきた彼らは、校内に棲んでいた様々なオバケと遭遇します。トペラトトのような人なつこいオバケがいる一方、みんなの夢や希望をペチャンコにするのが楽しみという困りもののオバケ「ドラドラバン」もいるらしく、3人はドラドラバンの悪さを止めようと奮闘します。「でも、どうやっつけたらいいのかな?」と眉村さん。答えはその先の部屋にありました。

自転車をこぐ力をワイヤーに伝え、流木オブジェの生徒たちが太鼓を叩く仕組み。

「太鼓の部屋」の前で自転車を力一杯こぐと、その力がワイヤーに伝わり、3人が和太鼓を打ち鳴らします。そのポジティブな響きと鼓動で、オバケをやっつけるというのがこの場面。それでは、いざ! 脳内BGMは、眉村さんのこの曲で。

眉村ちあき「ほめられてる!」MV

さて、みんなの大切な夢や希望は無事だったのでしょうか?

階段の踊り場にいた「トペラトト」。お腹にたまっていたみんなの思い出が口から飛び出しています。

階段の踊り場にいたのは、さっきの「トペラトト」。追い詰められたドラドラバンが最後にトペラトトをペチャンコにしたせいで、お腹にたまっていたみんなの思い出が口から飛び出したのでした。

眉村:わ〜。コワいけど何かカワイイ。きっと、みんなの思い出が学校中に広がったんだね。でも、そうしたらどうなるんだろう。

最後の部屋では、3人の生徒が、壁を抜けて空へ飛び出していくダイナミックな様子が表現されていました。それは「閉校はしたけれど、ここは大切な思い出で一杯になったから大丈夫」というメッセージ。この空間絵本のタイトル『学校はカラッポにならない』にも通じています。

もう大丈夫、という思いで空へ向け飛び立っていく子どもたち。

教室の外からも、飛び立つ子どもたちの姿が見えます。(撮影:宮本武典+瀬野広美)

眉村:わ〜、鳥肌立った! 素敵なラストだ。私、さっき廊下で学校の年表を見つけたんです。明治時代にできたんだなとか、ある年から「お汁給食開始」ってカワイイなとか発見があって。途中で戦争なんかもあるけど、平成17年の閉校まで、たくさんの子たちの思い出がここで生まれたんだなと想像できました。しかも最後の在校生3人は私と同年代だと知って、ぐっと親近感がわきます。実は、私もいつか学校を丸々使うライブをやりたくて、その刺激にもなりました。

子供たちや彼らを見守ってきた人々の思いが一杯に詰まったこの美術館。今は、訪れる人たちの新しい思い出や夢が、日々そこに仲間入りしています。

眉村ちあき「大丈夫」MV

ちなみに、噂のオバケ、ドラドラパンはどこへ?と思ったら、地下室でずいぶん小さくなっていました。ペチャンコにされたトペラトトも、人々がここを訪れることでまたまんまるになれるそうです。一件落着。

いたずらオバケ、ドラドラバンが地下室で小さくなっているのを最後に発見。(撮影:秋元茂)


食べて感じて、文化を知る。まつだい「農舞台」

まつだい「能舞台」は2003年に誕生。宙に浮いた宇宙船のような建物が印象的です。

続いて、まつだい「農舞台」に向かいます。ここは北越急行ほくほく線「まつだい駅」に隣接する、レストランと展示空間をもつ総合文化施設。「都市と農村の交換」をテーマに、松代地域の雪国農耕文化を体感できます。周囲に点在する屋外アートもみどころです。

まつだい「農舞台」(2003年)

「都市と農村の交換」をテーマに、地元松代エリアの雪国農耕文化を体験できる総合文化施設。オランダの建築家グループMVRDVが設計した建物は、各所がアーティストたちによる作品空間に。「越後まつだい里山食堂」では郷土の味にアレンジを加えた料理が楽しめる。

まつだい「農舞台」

*来訪は、上記ページで公開時期・時間や訪問方法をお確かめのうえご計画ください。

ここに来たらぜひ寄りたいのが、「越後まつだい里山食堂」。越後妻有の美味しいお米と旬の恵みをたっぷり使い、郷土の味をアレンジした滋味豊かな料理が楽しめます。

「越後まつだい里山食堂」。写真は平日の日替わりランチ「里山ごはん」。

ガラス張りの空間の向こうに、里山の風景を一望できます。(撮影:柳鮎美)

鏡のテーブルには、天井に並べたこの地域の四季の風景が映ります。

爽やかな水色の店内では、大きなガラス窓から棚田と里山の風景が一望できます。さらに、天井には地元の住宅から見える四季の風景写真も並び、鏡のテーブルに映り込む仕組み。これはジャン・リュック=ヴィルムートによる「カフェ・ルフレ」(2003年)というアート作品なのです。

眉村:うん、美味しい(モグモグ)。そしてお店が面白い! 私、これまでバスジャックライブ(貸切バス走行ライブ)とか、地引網ライブ(眉村さんの歌に合わせて参加者が網を引く)とか、色んなことをしてきたんです。どうしてかと言うと、日常の中に「非日常」を作りたいから。やり方は違うけど、越後妻有の作品にもそんなところがすごくあるのかなと思いました。

確かに「大地の芸術祭」から生まれた作品はどれも、土地に根付いた暮らしや歴史に、アートの大胆な表現力が交差するもの。まつだい「農舞台」には、他にもそんな作品がたくさんあります。

イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」2000年 稲作の四季を詠んだテキストと、対岸の棚田に立つ農夫たちの彫刻が、展望台から見たときに融合する。

草間彌生「花咲ける妻有」2003年 「大地の芸術祭」屈指の人気作。作者は越後妻有を「気高い土地」「どんな作品でも大手を広げて自由に包みこんでくれる寛容の地」と表現。

小沢剛「かまぼこアートセンター」2003年 冬の豪雪でも知られるこの地域特有の「かまぼこ型倉庫」を模したユーモラスな作品。気になる内側は覗き穴から眺められる。

河口龍夫「関係 – 黒板の教室」(教育空間)2003年 文化が育つ場としての教室に着目し、部屋を全て黒板素材にした空間。眉村さんは、直前に言葉と絵を残していったブラジル大使館の人々へ「あそぼうね!」とレスポンス。いつか現地公演で?

眉村:色々あるな〜。私、家族と一緒に1年に一度、酒蔵に行ったりして、社会見学みたいなことをしているんです。アートを通じたこういう「社会見学」も面白い! 今度はここに家族で来るのも、すごくいいかもと思いました。

眉村さんの旅は、後編へ続きます。

プロフィール

眉村ちあき(まゆむら ちあき)

1996年9月12日生まれ。東京都出身。弾き語りトラックメイカーアイドル 兼(株)会社じゃないもん代表取締役社長兼カリスマ。高い歌唱力に加えギターを弾き語りするスタイル、さらにはユーモアのあるサンプリング、トラックメイクの技術、明るく自由奔放なキャラクターで大注目される。2019年5月に1stアルバム「めじゃめじゃもんじゃ」でメジャーデビュー。2020年1月8日には2nd Album「劇団オギャリズム」を発売。さらに、全国ツアー「CHIAKI MAYUMURA 2nd Tour 劇団オギャリズム」開催が決定している。

眉村ちあき (株)会社じゃないもん

<後編へ続く>

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